ケイちゃんマナちゃんPresents ケイコとマナブ.net オリジナル連載小説
「夕陽の写真」 Vol.5
08/30 更新
作:鋳一雰士
イラスト:shiz
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美は夕陽を眺めていた。
それはこの世のものとは思えないほど大きい夕陽で、あの写真にそっくりだった。

の写真を取り出して確認してみると、やはり同じ夕陽だった。
「私、ここのこと覚えてる……」
元美はシャッターを切るのも忘れて夕陽に見入っていた。

だ、元美は知りたいことをなにひとつ知れていない。
あの写真がここを写したものだというのは分かった。
しかし、あの写真は夕陽の逆行で、写っている人物の顔が分からない。

たりの人物と、木が写っている。
ふたりとも夕陽のせいで、輪郭しかわからない。

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方の人物は自分のような気がしていた。
しかし、もうひとりは誰なのか。
それこそ、元美が最も知りたかったことだ。

の誰かが、元美を支えてくれてきた気がしていた。
いくらでもお礼を言わなきゃいけない相手だと分かっていた。

もそれが誰なのか、どうしても思い出せない。
ここに来たら思い出せるかも知れないと思っていたのに、その人のことだけが、まるで脳の一部を彫刻刀で切り取られたかのように思い出せない。
その人の何を覚えていないのかさえ、思い出せない。

うすると、その人のことを思い出せないということと、自分はひとりぼっちなんだということが、同じ意味であるような気がして、泣くことにした。

としきり泣き終わると、木の陰から得体の知れない老人が現われた。
その老人の顔は、影になっているわけでもないのに、目も鼻も口もなかった。
元美は
「こいつが幽霊ってやつか」
と思った。

人は元美に
「その写真のこと、思い出したいのですか?」
と声をかけた。
元美は服のソデで顔全体を荒くぬぐって、少し迷ってから
「いえ、大丈夫です。私は何も忘れていません」
と答えた。
記憶には何も残っていないけど、確かに元美は、忘れてはいけないことだけは覚えていた。

人は
「そうですか」
と残して、その場から消えた。

美は嗚咽しながら、知らない誰かに
「ありがとう」
と声をかけ丘を下った。

れから元美は、夕陽ばかりを映すカメラマンとして有名になった。
あの写真も、常に持ち歩いている。

こには2人の人物が写っているが、夕陽の逆光のせいで人物の顔は暗く、誰が写っているのかわからない。
逆光で人物の顔はわからないが、その写真は彼女がこの世でもっとも大切にしている、単なる夕陽の写真である。

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