ゴルフはあきらめることにした。だいたい、仕事と関連のあるものを選んだのが間違いだったのだ。仕事モードとの落差を見せつけられるようで、こっちの気分まで落ち込んじゃう。
「よく考えたら、一人で遊べるものは良くないのよね」
「って言うと?」
「肉体的にぶつかりあうもの。闘争心をかきたてられるものが良いわ。仕事モードのときのように、勝負に燃えるやつ!」
「……私としては、君のその情熱が少しでも仕事に傾けられることを祈りたいのだがね」
バン、と書類を机に叩きつけ、五代は冷やかな瞳を響子に向け、去っていった。
しまった。仕事中にこの話題をしてしまった。仕事モードの五代は、プライベートを職場に持ち込むことを嫌う。ましてや社内恋愛が御法度の会社なのだ。響子はため息まじりに、五代が叩きつけていった書類に目をやった。自分が書き直した企画書には、愛する彼の直筆で赤字の修正が書き込みつくされていた。まるで初めから赤で書いた書類のようだった。
平日は悔しいくらい優秀で格好いいデキル男なのに、なんで休日にはグータラになっちゃうの!
次の休日、二人が向かったのは公園のバスケットコートだった。
「バスケなんて高校からやってないなぁ……」
始める前からぼやいている五代を尻目に、響子はバスケットボールを取り出し、軽くドリブルしてみた。自分自身久々のバスケだけど、ボールをあやつる感触に違和感はない。うん、大丈夫。まだ体が覚えてくれてるみたい。
よし、と小さく声をあげて確認し、振り向いてコートを見ると、いつの間にやってきたのか、若者たちが10名ほど集まって、準備運動を始めていた。自分たちの後にコートを使って試合をするつもりらしいが、二人きりでバスケをしようというこちらにとっては、なんとも気まずい。おぼつかなくドリブルをしている五代にとってはさらに気まずいらしく、ちらちらと響子の顔色を伺っている。
「……あの、よかったらどうぞ」
周囲の空気にたえきれず、コートは若者たちに明け渡すことにした。ボールをしまう響子を手伝う五代の表情は、あからさまに緩んでいた。
「やけに嬉しそうね」
「そ、そんなことはないんじゃないかな」
「次のコート行くわよ。隣町にもあるから」
「うっ」
しかし、間が悪いことに、そっちのコートも親子連れと近所の学生に占領された後だった。我ながらブサイクだろうな、と思える表情を浮かべながら、響子は愛車のミニバンを自宅へと向かわせた。
「けっこう、みんなバスケやってんだな……」
助手席の五代はなにやらボンヤリともの思いにふけり、一足先に春の空気を漂わせていた。ニヤニヤと緩んだ顔がムカツク。
そして、一ヵ月後。
「家族連れをターゲットにするのに、巨大観光タワー? 馬鹿げていますね。必要なのは心と体のふれあい、地域で密接なコミュニケーションが取れる空間です。わざわざビルを建てる予算など引っぱってこなくてよろしい。たとえば、バスケットコート一つでいいんです。さらにここから、協賛のメリットを訴求できる企業リストと展開案として……」
五代のプレゼンはクライアントに好評を博し、見事ライバル会社を蹴落として予算を獲得したのだった。
ガッツポーズを決める五代をよそに、響子はひとり頭を抱えた。まさか、あのとき見たものを企画にしてしまうとは。この人に仕事を離れた趣味なんて、やっぱり無理なんだろうか……。