その場にいた者は全員、空中にビビビッとイナズマが走ったのを確認したはずだ。
ふたつの視線は真ん中でぶつかり合い、慣れているはずの同僚も思わず「ヒィッ」と身をかわす。
ふたりとも顔立ちが整っており、目元がシャープなために、人をにらむと怖さが引き立つ。
今日もまた、宮野アオイと宗方ミドリは、目の前にいるクソ女をベッコベコにヘコませるため、目を覚まして寝るまでの全ての時間を費やそうとしているのだった。
アオイとミドリは小さい頃からの幼なじみ。しかし、いつからか「あのオンナには絶対に負けない!」と、お互いをライバル視するようになった。
幼稚園の頃は冷凍みかんを奪い合い、小学校の入学式ではつかみ合いのケンカをし、学生時代さえ相手に恋人ができないように悪いウワサを流す始末。周りは「やめればいいのに」とため息をつき、はれ物を扱うように気を使っている。
しかも、進路や好きになる人、食べ物や音楽の好み、ケガをする場所や見る夢まで似ている。引越しをしてもなぜか隣同士で、気に入る店も服も一緒。いい加減に頭に来るのも仕方がないし、周囲も彼女らの争いを止める気持ちは失せている。
そんな不思議な縁もあり、顔を合わせてはお互いをののしり、何とかしてヘコませてやろうと浅知恵を働かせる毎日を過ごしてきた。
そして今では会社まで同じ。イベント関連会社でコンパニオンを務めている。
今度の争いの発端も、他の誰かから見れば、たわいのないことなのかもしれない。
その日の午後、ふたりは会議室に呼び出された。相手の足を踏みつけながら扉を開けると、そこには営業の北村響子と、大手取引先のエライ人が座っていた。
エライ人はボテッと太っていて好色そうにアオイとミドリを見比べた。
「いいねぇ、実にいい。でもひとりでいいんですよねぇ」
「いかがいたしましょう。当方でアサインしておきましょうか?」
「そうねぇ、オトナっぽい子がいいねぇ」
どうやら、次のイベントのメインコンパニオンを選びたいらしい。
ふたりが勤めるこの会社でメインコンパニオンといえば、記念式典の司会進行などイベントの顔としての仕事を要求される。
もちろんメインとサブでは収入もハクも優越感も段違いだ。
「はぁ、オトナっぽいでございますか……」
北村は背後のふたり、アオイとミドリの間に悪い空気が漂うのを感じた。
「それでしたら当方で検討いたしまして……」
「がっはっは。そうしてくれたまえ」
偉そうなデブはご満悦の表情を浮かべている。
アオイとミドリは、表情の筋肉だけで笑顔を作っている。しかしこの瞬間、ふたりの近くに羽毛を近づけていたら、自然に発火していたかもしれない。
こうしてふたりは、またも争うことになった。「失礼いたします」と、会議室の後ろ手に閉めた直後、空中にビビビッとイナズマが走り、ふたりの頭の中でゴングが鳴り響く。
勝負の内容は「よりオトナっぽくなった方が勝ち」らしい。
だが今回に限っては「何を賭けたのか」が違っていた。
負けた方が失うモノ。
それは長い間、常に争っていたふたりだからこそ、直感的に理解できたのだろう。
「ねぇミドリ。無駄な努力で時間を浪費するくらいだったら、引っ越し屋さんを紹介してあげよっか?」アオイが早くもイヤミを口にする。
「はぁ? アオイこそ荷物をまとめるついでに、ダイエットでもした方がいいんじゃないの?」ミドリも攻撃的な口調で応戦する。
すでにふたりとも、相手のことしか目に入っていない。
この勝負の行く末を、全く想像さえしていないのだ。