ケイちゃんマナちゃんPresents ケイコとマナブ.net オリジナル連載小説
「花婿はカウボーイ」 Vol.3
05/17 更新
作:真弓創
イラスト:GM
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やむやになってしまった結婚の挨拶。
それをきっちり終わらせておきたい、とマナミから切り出されると、村越は妻に目配せして、無言でうなずいた。
英会話教室に通いはじめて、わずか2週間。だが、それだけでも通う前とは段違いだと思う。

といっしょに通った英会話教室は、本当に教え方が良かった。実際のところ、英語は日常にあふれかえっている。英語の映画やテレビなども見てきているし、確実に自分の中で蓄積しているのだ。単語や発音の知識がそれなりにあってもコミュニケーションができない最大の理由は「照れ」だ。文法はこれで合っているのか。内容は間違っていないか。意味が通じなかったらどうしよう。笑われるのではないか。2週間かけて、村越とヨシコはそういった苦手意識をひとつひとつ取り除いていったのだった。
今なら……きっと、大丈夫。

スコーが神妙な顔でやってきて、玄関で手土産を両手で差し出してきた。中身はどうやらコロッケらしい。丁重に受け取り、妻に渡す。本来は席に着いてからいただくものではあるが、持ってくるだけでも見所がある。軽いジャブの応酬が終わり、いよいよ和室で向かい合う。ヨシコと村越、そしてマナミとムスコー。唾をのむ音を咳でごまかし、村越から火蓋を切った。

「Thank you for coming today」
ムスコーは村越の英語に目を見開いた後、おずおずと何事かを返答してきた。村越の背中から、どっと汗が噴き出す。なんだって。まったく意味がわからん。ヨシコも眉をひそめ、首をかしげている。
いや、あきらめるのはまだ早い。今度も意味がわからなかったらマナミに通訳してもらおう。

「How's your business going on……?」
ムスコーが絶句している。どうやら言葉が通じていないようだ。もう一度言いなおそうとした村越を、マナミが制した。
「お父さん。ムスコーはロシア人よ」
「はぁっ!?」
大声を挙げた村越に、マナミとムスコーが硬直した。ヨシコは横でずっこけている。

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「なんでロシア人なのにカウボーイルックなんだよ!」
「アメリカびいきのロシア人なの」
「まぎらわしいよ! そうか、さっきのコロッケはピロシキか! くそっ!」
一度切ったタンカは、すぐに収まらない。みるみるうちに心中の怒りが膨れ上がっていく。
「だいたい俺は、外国人との結婚なんて反対なんだ! それにカウボーイルックで挨拶に来るな! 撃たれたらどうしようかと思うだろうが! 俺は馬に乗れんぞ!」

分でも支離滅裂になっていくのがわかる。村越が怒っていることを察したムスコーが立ち上がり、今までで一番上手な発音の日本語でたしなめた。
「マアマア、オトウサン」
「お前にお父さんと言われる筋合いはない! でてけー!!」

スコーを家から叩きだし、泣き叫ぶマナミから目を背け、引き止めるヨシコをふりほどき、村越はひとり、高架下の屋台でおでんをつついていた。
「まったく……何がロシア人だ……」
ぐいっと燗酒をあおり、熱い吐息にまみれる。空気の淀みを感じたとき、風が入ってきた。新しい客だ、と思った瞬間、野太い声が上から降ってきた。
「村越先生じゃないですか! 14期卒業生の松尾です! ご無沙汰しております!」
「おお……おお、松尾くんか。こんなところで会うとは奇遇だねぇ。この間の同窓会、来てなかっただろう」
「すみませんね、もう、最近忙しくて……。名物美少女コンビの成長した姿も見たかったんですけどね」
「彼女らは相変わらずだったよ」

え子との思わぬ再会に、しばし苦渋を忘れる。燗酒を追加し、酌を交わす。
松尾は営業マンとして各地を飛び回っているらしく、酔うとすぐに仕事の愚痴をこぼしだした。
「……でね、先生。やっぱり、思うわけですよ。仕事でも何でも、人に物事を伝えるってすごく難しいことなんだな、と。もっと色々な言葉さえ知っていれば……先生の授業をもっと真面目に聞いていれば良かったなって」
「おいおい。いつも俺は言ってただろう。大事なのは言葉じゃない。言葉が伝えるものなんだ。それが伝わりさえすれば、文法や単語なんて大したことじゃない。大切なのは伝えるべき気持ち。想いなんだな」

こまで言って、村越はふと、ムスコーが描いた絵のことを思いだした。モデルがそこにいるわけではないのに、何枚も何枚も描き上げた、マナミの特徴をよくとらえた似顔絵。それをうれしそうに見せる、カウボーイの笑顔。……ムスコーがマナミを愛していることだけは、痛いほどに伝わっているのだ。

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例)英会話 渋谷
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