ケイちゃんマナちゃんPresents ケイコとマナブ.net オリジナル連載小説
「花婿はカウボーイ」 Vol.5
05/31 更新
作:真弓創
イラスト:GM
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露宴会場は、結婚式の会場とはうってかわって、大勢のゲストでにぎわっていた。
そのほとんどが日本人だ。ムスコーの友人も来ているが、その中にも当然日本人がいる。しぜんと外国人のゲストは小人数で寄り集まり、ほかのゲストたちから隔絶される格好になっていた。

の様子に気づいた村越はヨシコを連れ、外国人たちの輪の中に自分から入っていった。彼らに向かい、顔を真っ赤にして、たどたどしく英語で話しかける。向こうの言っていることはほとんどわからないし、こちらも言いたいことの半分も伝えられないのだが、すぐに親密な空気が生まれた。それは、日本人よりも国際交流に慣れている彼らの気質ゆえだろうか。それとも、これには別の理由があるのではないか。村越の脳裏には先ほどからずっと、タクシーで聞いた、ムスコーの父親の言葉がこびりついていた。

がて披露宴がはじまり、料理が運ばれてくる。
披露宴では、新郎新婦の親族は会場入り口、つまり一番奥に席を置かれる。村越一家は右端、ムスコー一家は左端。会話ができるような距離ではない。ムスコーの父親を観察していた村越だが、ヨシコにわき腹をつつかれ、我に帰った。

「ちょっと。お父さんのスピーチ、次だからね」
「え? 披露宴で俺が話をするのか?」
「なに言ってるんですか。結婚式で大泣きして、ろくにスピーチできなかったくせに」
「あれは大泣きとは言わない。男泣きと言うんだ」
「あいにく私は女なもので違いがわかりませんでした。とにかく、今度はちゃんとスピーチして、ふたりを祝福してあげてくださいよ」
「ああ……」
何を話したものかな。のんびり構えているうち、友人たちの余興が終わって自分の番が回ってきてしまった。

チパチパチ……
拍手がやむのを待ち、村越がマイクを手元に寄せて軽く息を吸い込んだとき、雑談の消えた会場に、パリン、とガラスの割れる音がした。村越を含め、会場の視線が音のした方に集中する。

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の先にいたのは招待客の奈良草先生だった。プルプルと震える手から、ワイングラスがすべり落ちていた。結婚の席上で「落とす」「割れる」は御法度だ。こうした会場では、カーペットやテーブルクロスで、何かを落としても割れないよう気を使っているのだが、運の悪いことに、落ちたグラスが卓上の食器にぶつかってしまったのだ。
「ありゃ。コップ落としたら、割れてもうたわい」
奈良草先生の一言が、静まり返った会場に響きわたった。

「これは、めでたいですねぇ」
とつぜん始まった村越のスピーチに、招待客たちが目を上げた。
「ロシアでは乾杯の辞の後、一杯のワイングラスを飲み干さなければなりません。そしてふたりの飲み干したワイングラスは床に投げられ、“幸福のために”壊されます。これは、グラスの破片が混ざり合うことで、新婚夫婦が一体になることを表しているのです」

なずいているムスコーの姿を見届け、村越は落ち着きを取り戻しながら続けた。
「朝からの雨も、ロシアの結婚式では幸福の兆しとされています。皆様ご存知の通り、本日はロシア生まれのムスコーくんと、日本生まれのマナミが結ばれた日。祝祭は日本式で、縁起はロシアの方をかつぐ。なんともめでたいじゃないですか。これが逆だったら大変でした。ロシアの結婚式は2、3日かけての大騒ぎだそうです。とてもじゃないが、体がもたない」

場にさざめきのような笑い声が起きる。
「……このように、ロシアと日本では式ひとつ取っても、大きな違いがあります。生活になればなおさらでしょう。でも、大切なのは何でしょう。違いを見つけて嫌悪感にひたることではないですよね。おたがいを理解しようと、おたがいが努力しつづけることだと思います。この言葉を、私はふたりに刻んでおいてもらいたいと思います」

スコーが立ち上がり、大声で叫んだ。
「お父様、ありがとうございます! マナミさんは必ず私が幸せにします!」
村越はびっくりしてマイクを落としそうになった。なんとも流暢な日本語だったのだ。なるほど、彼も歩み寄りの努力を続けていたのだな。ぼんやりそう思っていると、いつの間にかマナミがこちらまで走ってきていた。そのまま思いきり抱きしめられる。
「お父さん、ありがとう!」
「お、おい! 恥ずかしいだろう」
照れながらも村越は、視界の端で、ムスコーの父親が手を叩いているのを見つけた。
それはやがて会場全体に広まり、優しい拍手は雨音よりも高らかに、いつまでも鳴り続けた。

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