ケイちゃんマナちゃんPresents ケイコとマナブ.net オリジナル連載小説
「6月の花嫁」 Vol.1
06/07 更新
作:北岡雄一朗
イラスト:SAYO
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晦日、夜の街は新年への期待でにぎわっている。
年末だからか、カウボーイの格好をした外人と頭の固そうなおじさんも、ほろ酔い気分で楽しそうに街を歩いている。

「寝ちゃったね」
街の賑わいをよそに静かな寝息をたてる娘を抱いて、三笠奈々枝が言った。
「前ほど手がかからなくなったとはいっても、春香はまだまだ子どもだな」
三笠真司は娘の頭をやさしくなでながら、しあわせそうに微笑んだ。
「当たり前でしょう、春香はまだ3歳なんだから」
奈々枝はおかしそうに笑った。

――娘が生まれて、もう3年になる。
4年前に真司と結婚して、子宝にも恵まれ、ここまで問題もなくやってこられた。
夫は優しく真面目で、少し固いところはあるが、不満はない。
親バカながら、娘はかわいい。
これまで奈々枝が生きてきた27年間で、一番穏やかな時間を過ごしていた。

も、ひとつだけ心に引っかかることがある。
春香が生まれるまでずっと、奈々枝は外へ働きに出ていた。
働いているときはいろいろと不満もあった。妊娠を機に仕事を辞めることになったときは、清々しい気分にさえなったものだ。

かし仕事を辞め、子育てに追われる毎日が続くと、忙しく働いていたころが懐かしくなってきた。
春香もずいぶんと手がかからなくなっている今、奈々枝の中に「外へ出たい」という気持ちが大きくなっている。
「ねえ、相談があるんだけど……」
奈々枝は声のトーンを落とし、神妙な空気を漂わせた。

司は「母親は子どものそばにいるべき」という古い考えの持ち主だ。
それもあって今まで言い出せなかったこと。それを思いきって切り出すことにした。
「私、ブライダルコーディネートの講習を受けようと思うんだけど…… どうかな?」
「なんだよ、突然。ブライダルコーディネートってなに?」
「ほら、私たちの結婚式のとき、式についていろいろと相談に乗ってくれた担当の女の人がいたでしょ?」
「ああ、柏木さん?」
自分たちの結婚式のコーディネートを担当してくれた女性を、真司もよく覚えていた。

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「そうそう、その人。その柏木さんがやってたのが、ブライダルコーディネートよ」
「えっとつまり…… 予算に合わせて式場を選んだり、結婚式の内容を考えたりする人?」
「うん、だいたいそんなイメージ。新婚さんの希望を聞いて、それに沿った式をコーディネートする仕事」
「それの、講習を受けるわけ?」
「私、柏木陽子さんのことがずっと印象に残っててね」
「俺も、あの人のことはよく覚えてるな」
「そう、それくらい、私たちの式をすばらしいものにしてくれたものね。あのときのことがずっと忘れられなくて、私も、あの人みたいに誰かのしあわせを笑顔で彩る仕事がしたいの」
奈々枝の言葉に徐々に熱が入る。いつの間にか、腕の中で春香が眼を覚ましていた。

「俺としては、奈々枝には家にいてほしいんだけどな……」
渋い顔で目をそらす真司。
結局、その夜に結論は出なかった。
それから奈々枝は新年を迎えても粘り強く夫を説得し、仕事にまでするかどうかは置いておいて、とりあえず講習を受けるのはかまわないということになった。
「ありがとう、あなた」
こうして奈々枝はブライダルコーディネーターへの道を歩き始めた。

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