大学・大学院入試 過去問題&受験準備室

大学院の入試問題ってどんな感じなの?という皆さんのために、実際の過去問と解答のポイントを紹介するこのコーナー。今回は入試科目ではなく、出願書類の一つで、大学院入試では重要視されることが多い「研究計画書」にスポットを当てました!公共政策大学院合格者の研究計画書を見ながら、ポイントを解説しましょう。
第3回 今回のテーマ:
研究計画書編

研究計画書例(東京大学公共政策大学院合格者)

問題

「これからの自治体経営
 〜新しい官民協働運営、その枠組みのデザイン〜」


研究背景
 21世紀は地方の時代と言われるが、現状としては自治体間の税収に大きな格差が生じ、深刻な財政赤字を抱える自治体も現れた。これらの自治体は現状では増収は望めず、それ故行政サービス面で機能不全を起こす恐れがある。
 そのような中、公共経営に「民の力」を盛り込む、官民協働路線が打開策として期待されている。ツールとして、まずPFI(指定管理者制度や一部事業の市場化テスト)が挙げられ、NPOや民間企業が施設管理や公的サービスの提供を代行しているが、失敗するケースも多い。
 そこで、両者が真に力を発揮して運営に取り組む為に最適な、組織/協働デザインの理論的構築を目指し、デザインに沿って地域活性化の実現を図る。そのデザインを1つの方法論として完成させ、地域活性化のための普遍的ツールとすることをもって、本研究の目的としたい。

研究方法
 フィールドワークを中心に据える。主に以下の二通りの手法を考えている。

@自治体や、研究対象事業の当該者の下に赴いてのヒアリング、事業現場の見学を行う。自治体においては、企画部・課等の担当の方々に話を伺い、指定管理者制度等PFIの実例や行政サービスの市場化テストの現状と、今後の動向についての多種多様なデータの取得を目指す。この手法の対象としては、主に近隣の自治体・各種団体に焦点を当て、万遍なく折衝する。
A遠方地域には、まずEメールを送付して返信を請う、或いは直に電話で話を伺うといった手法で情報収集を目指す。その際アポイントメントが取れた相手先には、長期休暇時に赴き話を伺う。この手法の対象は、遠方における事業のモデルケースとなっている自治体等である。失敗事例の当該者についてもヒアリングしたい。
 収得した情報は、各ステークホルダーとそのメリット・デメリット、事業の成果や改善すべき点といった評価項目を複数定め、それに沿ってデータとして纏める。

先行研究
 今後の研究モデルとして、八王子市長池自然公園の指定管理者制度について資料を収集し、データを纏めた。参考とされたい。

@事業名称:長池自然公園
A管理者:フュージョン長池公園(NPO法人フュージョン長池と民間企業のジョイント団体)
B管理期間:H18.4.1より。
C財源:NPO入会金・会費、寄付金、財産収入、事業収入等
Dサービス内容:体験型学習施設である長池公園自然館及び公園全体の管理運営、催事の企画運営。
E事業の成果、効果:行政経費の削減、市民サービス・既存の資産価値の向上。
F事業の特徴、成功要因:地域のNPO、企業が指定管理者となることで、地域のメリットを優先的に考慮し、市民ニーズに即した運営を実践。
G今後の課題、問題点:指定管理者という制度ゆえ、当該事業への永続的連携関係は構築されていない。管理者が変更した場合に同等レベルの事業内容を継続するための仕様設定が求められる。

※備考:公共施設の管理運営業務をNPO法人が受託した先駆的事例であり、それ故当事業は指定管理者制度制定の契機とも考えられる。

修了後の進路
 シンクタンクへの勤務を希望する。本大学院での学習・研究をその礎としたい。2年間を通じて得る専門的知識とスキルを活かし、政策研究、提言活動を行い、より多くの自治体の活性化に貢献したい。

解説 ポイントをチェック

●お試しください!
「問題」の中で、色のついた文字にカーソルをあわせると、ここだけの解説ポイントが読めます。

 研究計画書は、大学院によってフォーマット、字数が指定されている場合もあれば、自由に書いていい場合もある。特に指定がない場合はA4一枚から一枚半程度が目安(今回の見本は一枚半程度)。全体の構成は、見本のように項目立てをしても、一続きの文章にまとめても構わないが、最初にその研究をする理由を明らかにした上で、研究方法の明示、先行研究への言及と展開し、最後にその研究を修了後どのように活かしたいか、とまとめるのが一般的だ。
 ポイントの一つは「研究方法」。どのような研究方法が可能かこの段階では明示しにくい場合はしかたないが、フィールドワークであれ統計的手法であれ、できるだけ具体的な方法が示してあると研究の実現可能性が明確になり、印象がいい。
 また、「先行研究」に関する言及はできるだけ厚めにしておきたい。研究背景等も含め、全体の2/3程度は先行研究に関する記述で、1/3程度がそれを踏まえた自分の見解というくらいのバランスをめざそう。また、公共政策のような現在進行形の問題を扱う研究科の場合は、見本のように事例を取り上げるケースもあるが、過去の文献からテーマをピックアップした場合は、参考文献を必ず記載しておくこと。その際、著書名(論文名)、著者名、出版(発表)年を明記する、書籍名は『 』、論文名「 」でくくるのが基本ルールだ。
 このように、学術論文の基本ルールにのっとって書くことは研究計画書全体を通して重要。例えば、文頭を頭下げしない、「・」で始まる箇条書きにするといったルールから外れた書き方をすると、教授に与える印象は悪くなる。自分の研究者としての素養をしっかり示す意味でも、細かな点への配慮は非常に大切だ。

(協力 by 河合塾KALS http://www.kals.jp/kouza/daigakuin/ )