大学・大学院入試 過去問題&受験準備室

大学院の入試問題ってどんな感じなの?という皆さんのために、実際の過去問と解答のポイントを紹介するこのコーナー。今回は、MBAの論述問題(小論文)を取り上げます。問題のパターンとしては、下で紹介しているような長文を読ませるタイプのほか、1〜2行の問題文で意見を述べさせるタイプのものなどがあります。このような大問題が2〜3問出題されるのが主流。では、ポイントを解説しましょう!
第7回 今回のテーマ:
MBAの論述問題編

論述問題例(法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科 一般入試問題 一般・小論文問題<2008年度第一回>)

問題

問1 下記の文章を読んで設間に答えなさい。

 イノベーションのように不確実で複雑なプロセス(1)においては、幸連も一定の役割を果たす。偶然に成功がもたらされるケースもあるし、時には、ただ1回の幸運からもたらされる利益によって、引きつづく何回もの失敗を十分にカバーすることができるようなケースもある。しかし本当の成功は、そのような幸運をものにすることを何度も実現できるように、そのための能力を持つことにある。そのためには、100%は無理だとしても、成功の確率が高くなるようにそのプロセスを継続的にマネージする必要がある。そしてそれは、偶然の要素が関与する余地をほとんど残さないほどに、プロセスを理解しマネージするという能力に依存しているのである。成功の源は、これらの行動を学習し繰り返す能力であるということが、これまでの研究成果から示唆されている。ゴルファーであるゲイリー・プレイヤー(Gary Player)のコメントと同様に〈練習すればするほど、幸運をつかむことができる〉のである。
 それでは、われわれはいつたい何をマネージしなくてはならないのだろうか?イノベーションとは、組織が提供しているもの(プロダクトないしはサービス、もしくはその両方)やそれらが生み出され利用者のもとへと届けられる方法の更新に関わるブロセスの核心部分である。組縦が関わっているのが、レンガであろうがパンであろうが銀行業であろうが乳幼児ケアであろうが、その根底には同じ種類の課題が存在している。イノベーションを通じてどのようにして競争の先頭に立ち、生き残り、成長するのか? (この課題は、警察やヘルス・ケアや教育などの非営利組織においても同様である。これらの分野でも競争は存在しており、イノベーションの役割は犯罪や疾病や非識字者などの問題に取り組むためのよりよい手段の発見にある。)
 このように一般化したレベルでは、イノベーションのプロセスを構成する4つのフェーズをマネージする必要がある。それらは:

● 内部および外部の環境をスキャンし探索して、潜在的なイノベーションに関する兆候を見つけだす。これらは例えば、さまざまな種類のニーズや、どこかで行われている研究活動の結果から生じる機会や、法律に適合するようにという圧力や、競合相手の行動、などの形態をとる可能性がある。しかしいずれにせよそれらは、組織が反応すべき刺激の集合体を代表しているのである。

● これら潜在的なイノベーションのトリガーの中から組織がリソースを配分する(2)べき対象を戦略的に選び出す。どれだけ豊富なリソースを有する組織であっても、すべてに対応することは不可能であるから、競争力を養う最高の機会を提供してくれる対象を選び出すことそのものが課題でもある。

● 選んだ選択肢にリソースを配分する。つまり、研究開発による創造もしくは技術移転による獲得を通じて、活用するべき知識の源を供給する。これは、他から買ってくるのか、あるいはすでに実施した研究開発の成果を利用するのかという、単純な問題である。ただし、適切なリソースを見つけ出すためには広範囲にわたる探索が必要とされるかもしれない。同様に、技術を活かすために必要とされるのは、形式化された知識のみならずその周辺を取りまく知識の(しばしば暗黙知(3)の形の)集合体である。

● アイディアをもとにさまざまな開発段階を経由して、外部市場(4)における新製品や新規サービスあるいは組織内部における新たなプロセスや方法として、最終的な事業化の段階にまで育て上げることによって、イノベーションを成し遂げる。

● 5番目のフェーズを実施するかどうかは任意であるが、これは以前のフェーズに関する反省を行い、プロセスをよりよくマネージする方法を学んだり関連する組織を得たりするために、成功と失敗の経験を再評価するフェーズである。

(出所)J.ティットほか、『イノベーションの経営学』より。

[設間1] 1. 次の語句の意味を説明せよ。

(1) 不確実で複雑なプロセス
(2) リソースを配分する
(3) 暗黙知
(4) 外部市場

解説 ポイントをチェック

●お試しください!
「問題」の中で、色のついた文字にカーソルをあわせると、ここだけの解説ポイントが読めます。

 この問題には、この後に、「2.あなたは、イノベーションのプロセスから運の要素を少なくするためには、どのようにするべきと考えるか、参考文献を踏まえて考えを述べよ。」という設問があり、こちらがメインの設問となるが、今回は語句説明の問題に注目。こうした語句説明問題の有無にかかわらず、長文を読ませる小論文問題では、用語の正確な理解がカギを握る。その際、「一般的な定義」と「その文中における著者による定義」が異なる場合があるので注意が必要だ。例えば、「イノベーション」は、一般的には広く「技術革新」という意味で用いられることが多いが、この文中では、著者が独自に「イノベーション」を定義している。一方、問題にもなっている「暗黙知」などは一般的な定義で使われている。
 つまり、語句説明だからといって、下線部だけ見て辞書的な意味を応えればいいわけではなく、常に文脈の中で語句の位置づけを理解することが重要。これは文章全体を正確に理解するうえでも、小論文中でこれらの語句を正しく使ううえでもポイントになる。
 そのためには、全体のテーマや作者の意図を早い段階で理解しておくことが必須。そのヒントは、問題文の1行目や1段落目にある場合がほとんどだ。

解答

※以下は、あくまで解答例です
(1) 予測不可能な要素が、複数入り組んでいる過程
(2) ヒト・モノ・カネ(・情報)といった経営資源を、どの部分にどれだけ効率的に投資するかのバランス
(3) 長年にわたる経験や訓練を通して個人や組織の中に蓄積される、言葉に表現しがたい知識
(4) 既存の市場ではなく、自社にとって未開拓な市場

(協力 by 河合塾KALS http://www.kals.jp/kouza/daigakuin/ )