人間総合科学大学 人間科学部 人間科学科(通信教育課程)
人間を研究対象としてではなく「ひと」としてとらえ、考える。その柱が「こころ」「からだ」「文化」です。
大東 俊一
担当科目/「人間観」「英語〜速読演習」「比較文化論」「西洋文化論」
主な経歴/法政大学第一・第二教養部・人間環境学部、専修大学経済学部、拓殖大学政経学部において非常勤講師(英語、哲学、論理学、東洋哲学史などを担当)
島田 凉子
担当科目/「行動科学概論」「人間関係論」「精神分析・交流分析」「現代家族論」
主な経歴/東邦大学医学部心身医学講座客員講師
久住 武
担当科目/「心理健康科学概論」「身体の構造と機能」「ストレスと健康」「現代の養生訓」
主な経歴/昭和大学病院耳鼻咽喉科兼担助手、昭和大学医学部リハビリテーション医学診療科特認講師、人間総合科学大学鍼灸医療専門学校非常勤講師、人間総合科学心身健康科学研究所副所長
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専門的に細分化されたことで失くしたものをカバーする
――人間を理解するためには「こころ」「からだ」「文化」という3つを総合的に学ぶ必要があるとして、カリキュラムもそのように構成されています。なぜこの3つのアプローチが必要なんでしょうか?

大東 科学というのは発展すればするほど、細分化され、それぞれの専門分野へと分かれていく傾向があります。例えば医学なら人間の身体のみ、病気のみを見ていく傾向があるので、その背景にある患者さんの心理とか家族の気持ちというのはあまり考えないんですね。本学には看護師など医療関係の仕事をしている学生が多いのですが、そういう患者さんに直接関わる人たちは「患者さんや家族の気持ちがわからない」と言って入学してきます。そうした学生たちが感じている「足りなさ」は、今の科学の「足りなさ」そのものなんですね。

島田 人間は社会の中で、たくさんの人と関わって生きています。その人間関係の中で、現代社会では心の病気を持つ人が増えているわけですが、「心の病気」といっても身体症状を持っている場合もあるし、元々病気を引き起こすような遺伝的な素因とか体質を持っている場合もあります。実際に「ウツ」では脳内物質のセロトニンやノルアドレナリンが低下していると言われていて、効く薬もあります。また一方で、その症状を引き起こすカギが、周囲の環境や人間関係、社会的な要因にある場合もあるし、いま挙げた全部が複雑に関わっている場合もあります。つまり、「心の病気」と言っても心理的なものだけを見るのではなく、文化とか社会的な要因も身体的な要因も全部見なくてはいけないわけです。それが、私たちが言う「人間」を学ぶということなんです。

――そうした「全体を見る」という部分は、これまでの学問分野としては手つかずの部分だったんでしょうか?

大東 近年はそうした部分をカバーするために「学際的に学ぶ」という言い方をするようになってきましたね。本学がやろうとしているのは、「学際」というよりも、もっと積極的に「総合」して学ぼうということです。

島田 例えば医学の中では「心身医学」という領域が生まれています。「頭痛がする」という症状があるけど、身体的な異常はなく、薬でも治らない。そこに出てきた答えのひとつが心の関与ということ。それで必要となったのが「心療内科」です。医学でも人間をトータルに考えるという流れは出てきているのです。本学には心療内科のドクターもたくさん教員として教えていますが、身体医学の領域も心理学の領域も、心を育みそのあり方の背景となっている文化も見ていきましょうという心身医学的な人間の見方が、本学の柱となっています。

久住 今の医学や生物学は、人間を分子のレベルで見ています。タンパク質が私たちを作っていますよというその見方に対して、逆の方向から人間を見てみようということです。もちろん分子のレベルで人間を見るのも大賛成なのですが、社会全体から人間を見るという視点も大切です。

島田 「学」という言葉がついてしまうと分断されがちですからね。

久住 私は大学病院で臨床をやっていたんですが、その中で患者さんのこころのトラブルをずいぶん感じました。そこでこの問題に対処しようと、いくつかの大学で勉強したんですが、どうしても教わるのは「心理学」なんです。しかし心理学で人づきあいはできません。知識の基盤として必要であるけれども、行動心理学とか認知心理学といった学問体系に入ることではなく、もっと全体として「人」をとらえないといけないと思いました。だから私たちは「こころ」を考えていこうとしています。「心理学」ではなくひらがなで書く「こころ」です。同じように、医学的に「身体」を教えるというよりも、人の「からだ」を教えていきたいと思っているんです。

島田 「健康」と「病気」の境目って結構あいまいですよね。医学的に言えば病名を付けるのは、治療や投薬のために必要なことなんでしょうけれど、しかし本来はそう簡単に分けられないものだと思うんです。そもそもここからは「病気」だとして「健康」から除外することに意味があるのか、という議論もあるぐらいですから。私は人間全体を見ることがとても大切だと思います。人間は誰しも心身共にいろいろな問題を抱えて生きているんです。何も問題ない、という人はまずいないのではないでしょうか。だからこそ、本学は、さまざまな角度・視点から人間を見るというたいへん有意義なことを教えていると思っています。
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「生ききる」という力を考えたい
大東 私たちの社会には文化のコードみたいなものがあります。無意識に私たちが従っているものですね。家族関係だったり行動様式だったり、世界観だったりというものです。「文化」の領域は、そうした人間の生活のベースになっている精神的な風土を理解してもらおうとしています。そこを知らないと、行動やストレスがうまく理解できないことが多いんですね。例えばその一つに「死生観」がありますが、本学で学んでいる看護師の学生の多くはここで悩んでいます。医学教育では、日本人の死生観なんて勉強しませんからね。また、企業で働く人は、職場の人間関係で悩んでいることが多い。そうした人間関係も、実は文化的な風土の上に成り立っているわけです。そうしたことを勉強していくと、家族や会社の人と自分との関係で気づくものが見つかり、その部分へ跳ね返っていくんです。

島田 看護師さんでいうと、緩和ケアの担当になって、どうすれば良い看護ができるのかを研究したいという声も良く聞きます。

久住 健康科学という視点から見ても、死というのは必ず通らなくてはいけないものです。人間はいつか必ず死ぬものですから。これまでの教育は懸命に「生ききる」ということをあまり教えてこなかったのかもしれません。生きることの価値がわからなくなっているから「死」をどうとらえれば良いのかがわからない。だから、私たちは「生ききる」ということの大切さを伝えていかなくてはいけませんね。
学生の視野を広げ自分自身を新たに発見する
――3つの領域を学んだ学生の集大成が卒業研究ですね。

大東 全体の総数でいくと「こころ」の分野が多いですね。

島田 卒業研究には一人ひとりに指導教員がつきますが、そのテーマによってどの領域の教員が指導するかを決めています。ただ、卒研のテーマは学生が好きに決めて良いので、中には誰が指導するか迷うようなものもありますよ。映画や動物、お酒の研究などもあります。

大東 研究の内容を読むと、みなさんしっかり「こころ」「からだ」「文化」という3本の柱を考えてまとめていますね。

島田 卒研の最後に「卒研を振り返って」という文章を必ず入れてもらっていますが、こころのテーマを選んだ学生でも「からだの領域からこんなことを学んだ」「文化からはこれを学んで、こんな形で研究に結実した」ということを、ほとんどの学生が書いてくれています。また、「からだ」に興味があって入学したけど、勉強していく中で苦手だった「こころ」に興味が出て、卒研は「こころ」にしたという学生もいます。さまざまな領域を学ぶことで視点が広がる。これが素晴らしいことですね。

久住 私たち教員も、それぞれの専門分野は分かれているわけですが、お互いに関連づけようとしていますからね。

大東 異なる分野の教員同士で勉強会をしたり、お互いの研究成果を発表し合ったりという活動を行っているんです。お互いが他の領域を意識し、知識を吸収して自分の領域に採り入れられるようにしています。

島田 教員同士が仲がいいですよね。勉強会も盛んですし。教員も大学で学び合って、それを学生に還元している部分もありますね。

大東 こうした教員の雰囲気も、本学の学問の性格に関わっているところですね。新しい学問領域として打ち出そうとしているわけですから、教員自身がそれを体得して体現する姿勢を持っています。それが学生にも伝わっているんじゃないでしょうか。
編集部の視点
専門化が進むことで失うものもある。複雑で繊細な人間を学ぼうとした時には、そのこぼれ落ちたものの中に大事なものがあるのかもしれない。細分化された学問の中で人間を見るのではなく、人生を生きている「ひと」として考えることが大切だ、という先生方の言葉が印象的だ。
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