人間総合科学大学 人間科学部 人間科学科(通信教育課程)
通信制4大でありながら、卒業率約72%。数字が明かす、学生たちの意欲を引き出す教育力。
中山 和久
国際日本文化研究センター講師、慶應義塾大学非常勤講師などを経て人間総合科学大学 人間科学部 人間科学科(通信教育課程)専任教員に就任。文化人類学、民俗学が専門。
卒業率の高さは魔法ではない
通信教育で学ぶ際の最大の関門は、続けることの難しさだ。文部科学省が出している2008年度の学校基本調査によると、4年制の通信制大学の平均卒業率は約14%。この数字からも、学び続けることの難しさが十分伝わってくる。こうした現実の数字を前にすると、人間総合科学大学 人間科学部 人間科学科(通信教育課程)通信教育課程の約72.2%という卒業率がいかに突出した数字であるかがよくわかる。はたしてこの高い卒業率はどこからくるのか?
「卒業率の高さについてはよく聞かれることなんですが、実はたくさんの地道な努力をまじめに行っているということにつきると思います」と語ってくれたのは、人間科学科で宗教人類学を教えている中山先生だ。
人間総合科学大学 人間科学部 人間科学科(通信教育課程)では、学生が学びやすいように多くの仕組みを取り入れている。例えば、通常のスクーリングに参加できない学生のために、「インターネット授業」でスクーリングに代替することができる科目を多数設定したり、科目修了試験自体をインターネット上で受けられる「インターネット試験」を行ったりといった工夫だ。また、通常の科目修了試験でも全国9カ所(2009年度)で開催され、さらに1科目につき年間最大4回の受験機会が用意されている。
「こうしたさまざまな仕組みで、なるべく学生にかかる負担を少なくしようとしています。ただ、こうした器ばかり用意しても、学生が学ぼうというモチベーションを持ち続けなければ、結局は活用してもらえません。私たちが最も気をつけているのは、学生たちに学ぶ意欲をずっと高く持ち続けてもらうということです」と中山先生は言う。
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教育のための大学として、担任教員が学生一人ひとりをサポートする
「通学の場合でも通信の場合でも、離学する学生に共通しているのはイメージと現実のミスマッチだと思います。こんなのは思っていたのとは違う、ということですね。それでも通学の場合は周りに同級生もいるし、先生の顔も見える。しかし通信教育の場合はそれがありません。そうしたモヤモヤを自分の中だけで処理するのはつらいために、結果的に離学してしまうということも多くなってしまいます。そこに効果的に手を差し伸べてあげられるのは、私たち教員なのです」。
もともと、人間総合科学大学 人間科学部 人間科学科(通信教育課程)では、必修である卒業研究のために、学生に必ず指導教員がつき、テーマ設定や研究指導にあたっており、学生たちから大きな支持を得ていた。それを1年次からの「担任制度」に拡大して、入学時から学生一人ひとりのフォローを行っているのだという。
「大学というのは本来教育の顔と研究の顔を持っているものですが、本学は教育のために創られた大学です。なるべく多くの人に学ぶ機会を持ってもらうために、通信制の大学として開学したわけです。当然私たち教員の意識も、学生にずっと意欲を持って学んでもらうためにどうするか、ということに向いています。教員同士もお互いに連携をとりながら学生一人ひとりに接するようにしています」。
学生が高いモチベーションを持って学べる環境づくり。大学をあげてこのテーマに取り組んでいることの積み重ねが、大きな成果につながっているという中山先生。こうした姿勢はオリジナルの教科書づくりにも表れている。
書き下ろしのオリジナル教科書と通いやすいスクーリング日程
「基本的に本学で使用する教科書は、オリジナルに開発したものを使います。通信教育では、学生は教科書を頼りにはじめての科目に取り組まなければいけません。教科書が教員の代わりになるわけですから、なるべく難解さをなくし、学びのポイントを整理し、写真や図、イラストを使いながら、わかりやすく、読みやすいものにしようと教員と専門スタッフが書き下ろしています」。
また、スクーリングについても、その開催日を週末に集中させるなど、学生が参加しやいように配慮しているという。
「スクーリングは、学生同士の交流や教員と直接接する機会としてたいへん重要なものです。ただ、時間的には負担を強いるものなので、週末や連休の3日間を中心に開催することで、出席しやすいスクーリングを目指しています。本学の卒業率の高さは、こうした担任制、わかりやすいオリジナルテキスト、スクーリング日程の工夫という要素が組み合わさって生まれているのではないでしょうか」。
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学生の学習環境を調べてアドバイスも
取材に行った日はちょうどスクーリング開催日の夕方で、キャンパスのあちらこちらで教員と面談している学生の姿があった。
「いま面談している学生たちは、おそらく卒業研究のテーマ決めの相談をしている学生たちでしょう。普段担任や卒業研究の指導教官とはメールや手紙、電話などでやりとりをすることが多くなりますが、スクーリングの機会などを利用して、直接会ってコミュニケーションをとるようにしているんですね」。
中山先生自身も、翌日に卒業研究を指導する学生との最初の打ち合せをする予定だという。
「Aさんという60代後半の女性ですが、卒業研究のテーマ相談を手紙でもらいました。箸の研究をしてみたいということが熱心に書かれていたんですが、住所を見るとずいぶんひなびた所にお住まいのようなんですね。メールではなく手紙で連絡をくれたということは、おそらくインターネットの環境も持っていないんじゃないかと思いました」。
手紙には体調があまりすぐれないということも書いてあったので、頻繁に外出することも難しいらしいと読みとった中山先生は、住所を頼りにAさんの住む村の公民館に電話をかけ、蔵書の有無や県や市の図書館から本を取り寄せて借りることは可能か、といったことを調べたという。地元の公民館には蔵書はなかったが、県の図書館に依頼すれば取り寄せられることがわかった。Aさんとの面談では、研究の進め方について、まずは公民館に依頼して県の図書館から資料を取り寄せる方法から伝えるつもりだという。
「Aさんのように『研究する』ということ自体がまったく初めてという方には、まずその方法を教え、研究する視点のヒントを一緒に考えることからはじめています。学生たちは年齢やキャリア、そして住んでいる環境もすべて違います。決まったやり方に当てはめてしまっては、学生たちに無理を強いることになり、次第にモチベーションが下がっていくことにつながります。私たちが担任制で行いたいのは、学生一人ひとりに適した学び方を提供することです。こうした積み重ねでしか、学生たちの学びたいという強い意欲に答えることはできないと思うのです」。
編集部の視点
中山先生の言う「地道な努力の積み重ね」とは、学生に対して向かう人間総合科学大学 人間科学部 人間科学科(通信教育課程)と教員の姿勢のことだ。卒業率の高さは決して仕組みだけで実現しているのではなく、教科書づくりやスクーリング日程、そして担任制など、多くの学生に学ぶ機会を提供するという基本方針を、一つ一つ丁寧に実行していることで達成している数字なのだ。
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